人の生涯。女性の生涯。
何人と性的な縁を重ね、
幾つの想いを心に刻むのだろう。
人それぞれ。
性を片隅に追いやって生活する人達も大勢いるのだから、
こんな僕の疑問は、性に目覚めた子供達が漠然とよぎらせるだけの
非常に他愛なく、とるに足らない稚拙な疑問なのかな。
男性経験は生涯一人だけ、夫となった男性だけ、そう決めた女(ひと)。
彼女のそれまでの人生に、真逆な毎日を送る僕は、
羨ましさをひた隠しながら“美”と“誠”を讃えずにはいられなかった。
ところがある日、彼女の意識が少しずつ変化し始める。
伴侶を亡くし、殻に閉じこもる日々を過ごした後、
外に出た彼女は同年代の同性達と出会う。
彼女達のはつらつさに驚き、その輝きに思わず目をみはる。
そして、性についての価値観の相違に驚かされると、
女としての自分の生涯を考えさせられてしまった。
――それまでの貴女の生き方を否定しないで欲しい。――
そんな思いで僕は彼女を見つめ、話に耳を傾けていたんです。
過去の東京五輪の賑わいを 肌で覚えている彼女。
僕とは同じ干支だといっても、僕よりも三度多く干支が巡られていた。
二人は緩(ゆる)い間接照明に包まれながら、
いつもベッドの上で肩を寄せて座り、朝まで話していたけれど、
意識をしなくても知らず知らず漂ってしまった年齢の差。
その雰囲気を紛らわせてしまおうとしたのか、
それとも雰囲気に流されてしまったのか、その時 彼女が口にしたのが、
「女って何人の男に抱かれたら気がすむんだろうね」。
こんな身の僕を男として思ってくれていた。
それがじんわりとした嬉しさを誘い、救われたような心持にさせてくれた。
だから彼女に会う時の僕は無理をせず偽らずに色んな僕を見せようと心がけた。
何人もの男に抱かれる勇気の無い彼女に、
僕の中に実存する幾つかの“男の部分”を見せたつもりでいる。
会うにつれ、可愛らしく思い募った彼女とは9回会えた。
ある時は少女のような一面を見せてくれ、
それがとても微笑ましくて、その日 家に帰るとすぐに
彼女の名前の頭に“Girl“を付けてアドレス登録し直した。
あれほど薄暗い部屋で抱き合ったのに、
いま、僕が思い出す彼女の姿といったら、
真っ白な部屋でベージュの寝巻きを着て力なくベッドで上体を起こし微笑む姿。
無理やりそれを消し去るとようやく
あの少女のような微笑みが浮かびあがる。
僕は、
人が避けて通ることのできない
こういう深い悲しみへの対処法を未だ知らない。
おそらく、
おそらく僕が、
おそらく僕が彼女にとっての最期の男だった。
彼女にとって、こんな身の男で良かったのかという、
野暮で最低な質問も 今となっては もうできない。
晩年まで、生涯一人の男だけに貞淑を守った女性。
習慣と意識が全く違う時代を生きるいい加減な僕が
彼女のビューティフルライフを穢してしまったような気がして。
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Girlひ〇こ に捧ぐ。
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David Gates - Goodbye Girl
久々の更新になりました。
けっこう色んな事がありました。
心配してメールをくれた女神様、ありがとう。
追って必ず返信いたします。
また明日から宜しくお願いします。