監禁場所から家までは、歩いてわずか10秒たらず。
リビングの時計の短針はちょうど10を指していた。
みんなそれぞれが素晴らしかった。
こういう行為に順番をつけてはいけないのだと、その後知り合ったある女性が言っていた。
確かにみんなそれぞれに魅力があった。
誰一人として顔を見せてくれた女の子はいなかった。
手も後ろで縛られていたので、胸さえ触ってもいないが、
俺の唇の感触は、今でもその人の香りとともに、舐めさせられた全員の蜜壷を覚えている。
でも、やっぱり初体験となった相手が一番印象深かった。
シャワーを浴びている時、胸に「M」とみみずばれになっているのに気づいた。
初体験中、彼女の爪によって刻まれたものだ。
年齢も名前もわからない彼女との時間の記憶が、身体のいたるところに残っていた。
初体験の相手となった彼女の声は、全てがひそひそと囁くようなものだったが、
可愛らしく印象に残るその声は、頭の中でいつも鳴り響いていた。
そしてその都度、白い脚と内腿にあった二つのホクロを思い出した。
どんな顔をしているのだろう、何が趣味なんだろう……。
俺の心の中で、当時、恋心を寄せていた同じHRの瑞穂が占拠していた部分に、
顔すら知らない〝イニシャルM〟が、だんだんと侵略していった。
寮生ではないと思われた彼女とは、もう会えないのかも知れない。
そう思うとよけいに会いたくなった。
彼女の事を何も知らない分、想像が先行し、
勝手に作り上げた空想の動物のような彼女のプロフィールを
俺は毎日頭に置いてロンリープレイにふけった。
学校で色白の女子を見かけると、内腿に二つの小さなホクロがあるかもしれないと、
スカートがめくれるのを期待した。
もしも探し当てる事ができたなら、俺は交際を申し込むつもりでいた。
顔などはどうでもいい。
彼女と共にした衝撃の1時間半で、俺は愚かにも彼女の内面を理解したつもりでいたのだ。
この拍車がかかる恋心をどうしてくれよう、と、
顔も見せないまま心の鍵を強引に壊して開けた人に、責任をとって欲しいとまで思っていたのだ。
あの日、その人が言った「君の初めての女になりたいの」。
それは責任をとってくれるという意味なのではないのか。
でも、誰にでも全裸を晒すような男を恋人として考えられるだろうか。
俺はやっぱり、女子達の密かな快楽用のペットでしかないのか。
悪く言えば女子達の公衆便所、――笑える、なんてM心をくすぐる表現だ。