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実話小説・隣の女子寮-26

tz89

 その人が唖然としたのは当然で、ポカンと口が開かないかわりに、
目の玉が大きくなったが、すぐに目尻が下がり、
「何言ってるのぉ」と笑顔を見せてくれた。
口角が上がったその人を初めて見て、
「ほんとは綺麗なのに」と、またしても口を突いた。
「大丈夫?」と首を傾げながら目線を上げた瞬間に、
俺の中で、あくまで俺の中だけで、その人との距離が更に縮まり、衝動ついでにレジまで行き、
メモとペンを借りると携帯の番号を書き、
「電話ください!」とメモを突き出した。
唖然が去った後、今度は呆然に襲われたその人は、それこそきょとんと立ちすくみ、
「待ってます!」と言って背中を向けた俺を無言のまま見送った。

>あの日の俺の気持ちに、いったい何が働いたんだろ。
異性との関係で、いつも受身だった自分から脱却して、
いきなり攻めに転じようと思ったわけじゃない。
笑顔か。あの時の笑顔だな。
見た瞬間、ものすごくザワザワしたしな。
この人、こんなに綺麗なのに……ってマジで強く思ったんだ。
でもなんで、また会いたいって意志表示した?
わからんな。でもちょっとだけど年上の女性を知りたいな、ってのはあったのかも。
でもちょっとだよ。それよりやっぱり可愛い笑顔をもっと見たかったんだと思う。
マジで可愛かったんだから。

「カラオケの、ローソンの」。
翌日に受けた電話の相手は、その人妻だった。
「どうして電話番号を渡したの?」
「わかりません、ただ渡したかったんです」

俺が主導の会話を試みても、どうにも上手くいかない。
かえっていろいろ考えてしまう分、妙な沈黙が襲い、冷たい印象まで与えてしまう。
前日の勇気はなんだったのだろう、と思いながら、ぎこちない会話を続けていた。
その人から電話が来るか来ないかは、俺自身、賭けでもあった。
年齢の差を8歳とふんだ。相手は人妻で母親でもある。
そんな女性から見て俺は、男としてどう映っているのかを知りたかった。
同年代の女子寮の住人が、日夜俺の身体を見たがるのは、
男としてではなく、なんでも言う事を聞く玩具のようなものなのだろうと思っていた。
おそらく恋愛対象には考えられないだろうし、俺もその方が都合が良いし、玩具なりの悦びもある。
だけど、男としての魅力、寮生らとの秘め事を知らない女性から見た俺は、
どんなものなのかを知りたかった。

tz90 tz91

| 小説・隣の女子寮 | 13:09 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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