「今度、カラオケ行きませんか?」と俺から誘った。
その人からOKが出るまで30分もあった。
――君から見たらおばさんでしょ?
――年齢が離れすぎてるでしょ。
――私なんてもうダメだよ。
――他の人が見たらどう思う?
俺はそれらのネガティヴな言葉一つ一つを潰しにかかる。
――可愛いと思います。
――年齢の差は感じません。
――まだまだ女を感じます。
――姉と弟でいいじゃないですか。
「行きたくなかったら、無理には誘わないですけど」
「行きたい気持ちあるよ、話しもしてみたいし」
「なら、行きましょう!いっぱい話しをしましょう!」
三日後の約束はカラオケボックスで午前11時。
彼女が部屋をおさえ、そこに俺が後から入室した。
立って迎えてくれた彼女に、俺は目を奪われた。
短めの黒いワンピースはボディラインをくっきりと際立たせ、
シャープな黒のブーツとミニワンピの裾との間で主張する脚が艶かしい。
髪の毛からはカラメルシロップが消え、
美しく染まった髪には四日前には無かったウェーブがある。
俺に会う為に、お洒落をしてきてくれたんだ。
男として見てくれている表れなのかな、と思うと嬉しくなった。
こんなカッコするの久しぶり、と彼女は言った。
安室奈美恵ばかりを歌い、「懐かしい」とデンモクのページをめくる彼女の指先を見つめていた。
手は決して綺麗とは言えない。育児と家事に明け暮れる母親の手だ。
疲れているんだろうなぁと思うと、彼女を癒してあげたいと刹那に思った。
だけどその方法がわからず、空で彼女が歌う安室奈美恵を聴いていた。
その日は、彼女の「ありがとう」が締めの言葉となり、二人はカラオケボックスを後にしたが、
その日以降から二日に一度のメールのやりとりが始まることとなり、
年が明けて1月の中旬に、俺と彼女はホテルで時間を共に過ごすこととなった。