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実話小説・隣の女子寮-49

tz161

>俺は女子寮の住人の公衆便所みたいだな。
さすがにその日だけは、そんなふうに自分を責めたんだ。
寮生達は俺をそう思っているのかもしれない。
だとしたら、それは辛い。
彼女達の性欲が、濡れた蜜壷で悶々と疼くのか、
それとも脳内のどこかでじんじんと熱を帯びるのかは知らないけれど、
吐き出された性欲をもう一度吸引して、心や脳のどこかに留めておいて欲しいんだ。
でも、公衆便所だと思って吐き出されてしまうだけなら、それはあまりに切ないじゃん。
俺はさ、彼女達の顔を見なくても、手に触れることを許されなくても、
彼女達がこの身体に伝えてくれた感触を記憶として一つずつきちんと整理して、
匂いと一緒に、脳に半永久的に収めておきたいと思っているというのにさ。
公衆便所なんてあんまりじゃん。

「彼女達とは肉体関係になってしまった」という言い方をすれば、
その縁のあらましは、「家が近くで、同じ高校だったから」となる。
でも人として考えれば、この国には1億3千万人もの人がいて、
世界で言うと人の命は70億もの数になる。
それを思うと、彼女達と結んだ関係の一対一対(いっついいっつい)は、
全て偶然の巡り合わせであり、ナンパであろうと、幼馴染であろうと、
人との縁は〝奇跡〟と呼んでも非ではない。
「彼女達とは肉体関係になってしまった」と言うのではなく、
「彼女達との肉体関係を授かりました」。
そう言いたいからこそ、死ぬまで記憶しておきたいんじゃないか。

お願い、俺を記憶の片隅にでもいいから留めておいて。
17歳のクリスマスイヴ。
みんなとのことは死ぬまで忘れないから。

携帯のメール受信音が目覚まし時計の役目を果たした。
寝ながら無意識のうちに目隠しを外していたようだ。
どれぐらい眠っていたのだろう、まだまだ眠り足りなくて、
机の上の携帯に手を伸ばすのも億劫だったが、
奏でられた受信音は瑞穂からのメールを告げるよう鳴り分けされたものだったので、
身体を起こさずに手を伸ばすだけ伸ばして携帯を手元に引き寄せると、受信フォルダーを開いた。
<もしかしてまだ寝てる?起きたらメルヘン>
メルヘン。メール返信の意。
俺と瑞穂との間でしか使われていない、俺が作ったコトバ。
すぐにはメルヘンせずに、何通かの未開封メールを読む。
8時前にも彼女からのメールが届いている。
<今日行けなくなっちゃった、ゴメンネ。
明日の昼頃にはケーキ持って行くからね、メルヘン>

ほっとした。昨夜瑞穂に来られては、痴態と恥態を晒してしまうところだった。
「はぁー、良かったー」溜息交じりの独り言は白いシーツに吸い込まれ、
メールの画面は閉じられないまま携帯を握りしめて、ベッドにうつ伏せ、
窓ガラスがシェイドをかけてくれる12月の丸く柔らかな日差しの中にまどろんだ。

tz162 tz163

| 小説・隣の女子寮 | 11:41 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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