私の計画は、優花さんがいてこそ遂行される。
全ては優花さんにかかっている。
遠い遠い県で働く彼女が帰郷するのは年に4回から5回と聞いた。
もしかすると10月、忙しければ年末まで待つかもしれない。
長いけど、その日まで、首を長くして待つことに決めた。
夏休みが終わってからの本庄君は、がらりと雰囲気を変えた。
休み中に染めた明るい髪の色が、そう感じさせたのもあったけど、
休み時間に、男子と話をするようになり、
次第に数名の女子も彼の机の周りで話すようになった。
私はその光景をいつも気に留めながら、落ち着かない気持ちで見ていた。
明るくなった彼の好感度ランクはいきなり上位に跳ねあがり、
クラスの上位から学年の上位へとステージを変えた。
隣のクラスの菜摘が、本庄君に告白するというのを耳にしたのは、
同じHRの友人から聞かされたことで、
用も無いのに頻繁にうちらのクラスに遊びに来たり、
廊下から教室の中を数名で覗いていたりと、とにかく邪魔くさかった。
菜摘とは同じ中学で、一度も同じクラスになったことはないけれど、大嫌いだった。
中2の冬に私はピーコートを買った。
みんなは紺色のものを着ていたけど、
駅の近くのショップで真っ白のピーコートを見つけ一目ぼれをした。
そして赤いチェックのマフラーも一緒に買って、翌日学校に行った。
玄関付近で菜摘が友達2人と一緒に話をしていた。
見ると菜摘が私と同じピーコートを着て、同じような赤いマフラーをしていた。
なんだか恥ずかしくなってしまった私は、急ぎ足で彼女達の前を通り過ぎようとした時、
菜摘が低い声で「アタシの方が似合ってる」と言った。
それ以来、私は菜摘が大嫌いだ。
彼女には、私が持ちあわせていない行動力があり、
かつて私が鳥肌をたててしまったほどの超ぶりっこを場合によって演じられる女だ。
残念ながら確実に私よりも可愛い。
中学の頃から年上の男性と交際するほどの行動力の持ち主。
それも中学2年にして20歳の男性とつきあうほどの勇気も兼ね備えている。
比べて私は……、とにかく……残念だ。
おそらく、このままいけば本庄君は菜摘に落とされる。
既にロックオン状態にある。
なんとかしなければ。
菜摘が告る前に、対策をねらなければならなかった。
優花さん、早く来ないかな。
私の計画ではHしてる最中に、「同じクラスだよ」って言うつもりなのに。
優花さん、待っていられない。
どうしよう、さぁどうしよう。
本庄君が周りと世間話をする回数が増えるにつれ、
彼の人気は性別を問わずにぐんぐんと上がっていった。
言葉少なにボソボソとした話し方も、
所々で披露されるギャグセンの高い小ネタも、
どれもそれまでの彼とのギャップを感じさせて、全てが魅力の一つとなった。
ジャニオタで面くいのイツメンの子にまで
「本庄君いいわぁ~」と言わせるほど、存在感をアピールしていた。
でも本人は極めて自然体。
周りを意識していないスタンスが憎らしいほどカッコ良かった。
菜摘が本庄君に告ったのは10月のある月曜日。
芸術鑑賞で市内の文化ホールへ学年全体で行った時のことだ。
彼を気にし始めたイツメンの子が、2人で話していたのを目撃した。
「菜摘が告ったっぽいよ」
それを聞いたのは芸術鑑賞の3日後の木曜日だった。
「もうつきあっているのかなぁ」と心配になった私は
シホになってその夜にメールしてみた。
「最近どう?何か変わったことあった?」から切り出してみたけど、
「何も変わりはありません」と返って来た。
「彼女とか欲しくなったりしてないの?」
「ボクは彼女なんて作っちゃいけないんです」
「なんで?」
「いろいろと考えることがあって……」
ほっとした。
菜摘とはつきあっていないようだ。
彼は彼なりに亜美さんや弥生さんとの関係を気にして、
彼女なんて作っちゃいけない、と思っていたようだ。
「彼女ができたら私とのメールもやめるの?」と聞いてみると、
「わかりません」の、それだけのレス。
「ねぇねぇ、電話でしない?今からダメ?」
「いいですよ、今から電話しますね」
その日の彼はイクのが早かった。
焦らしに焦らし、我慢しまくった私がイクまでに、
彼は3回たて続けにいった。