午前11時に自宅への指名が入っていることを受付から聞いていた。
その女神様と会うのは両手の指以上の回数で、
今では直メしあっている間柄になり、最近は殆ど自宅に呼んでくれる。
夜明け前に家で企画書を仕上げた僕は、一睡もせずに会社へ行き、
コピーを3セットとり、営業さんのデスク上に置いた。
時刻は午前9時30分。いつもなら朝のミーティングをしたり、クライアントからの電話が鳴りだす時間。
今日は土曜の祝日、社内は静まりかえり、コピー機の予備蓄電の音がやけに耳に触った。
「もしもし?サヤカさん?」
「おはよう、どうした?」
「行くの11時だよね?早く行ったらダメ?」
「アタシこれから買い物に行くの、10時からスーパーで先着の安売りがあるの」
「そっかぁ、じゃあやっぱり11時に行くね」
「家の鍵を開けておくから入ってて待ってていいよ」
「ありがとう、じゃあそうする」
サヤカさんの家に着いたのは10時ちょうど。
開店を待つスーパー前の列にはサヤカさんが並んでいるはず。
いつもは綺麗に着飾って、家着だと言ってもおシャレな服装をして迎えてくれるサヤカさん。
先着の安売りの行列に並ぶ彼女の姿を想像できずにいた。
みんなそうして節約してるんだ、僕と会うお金だってそうして作ってるんだ。
女神様達は決して裕福な人達ばかりじゃない。
急いで片づけられたと思われるリビング。
サイドチェストの上には化粧品がたくさん並ぶ。
ユニクロのグレーのスウェットが無造作にソファーに脱ぎ捨てられていた。
トイレを借りた。
シャワールーム前の脱衣場のアコーディオンカーテンが開かれていた。
大きな籠が二つあり、片方にはパンストとブラとショーツが乱雑に入れられているのが目に入った。
トイレからリビングに戻り、部屋を一周見渡した後、キッチンに立ち、食器を洗いだした。
迷惑かもしれないな、そう思いながらスポンジに泡のチカラをつけ、
無印良品の物と思われる白くてシンプルなご飯茶わんを洗いだした。
女性の留守中に掃除洗濯をして女性の主を待つター君の心境を知りたかった。
主が帰宅するとマッサージをし、クンニをする。
今日はター君になってみたいかも…、そう思ったから食器を洗い、トイレ掃除もしてみた。
浴室を洗おうかと思っているとサヤカさんが戻って来た。
「ター君の気持ちを知りたかったから迷惑だと思ったけどついやっちゃった、ごめんね」と、
事情説明をすると、申し訳なさそうに笑うサヤカさんだった。
「もうしないから、ごめん、今回だけだから、ごめん」
「やってみて、どうだった?」
着飾って会ってくれるのはすごく嬉しい。
でも、生活感や生活臭まる出しの様子を見るのも、
その人のありのままを見せてくれているようで、嬉しい。
サヤカさんが今まで以上にステキに見えます。
買ってきたティッシュの箱、トイレットペーペー、食品類に囲まれながら
床にペタンと女の子座りをしたサヤカさんが、
「じゃあ今日はメイクするんじゃなかった」と笑った。